動画撮影の際は照明、ライトを使ったほうが良いらしい、ということは動画撮影初心者の方でもなんとなく認識されているのではないでしょうか。でも、具体的にどのように照明を活用すればよいのかは分かりにくいですよね。
基本的な照明テクニックを実践するだけでも映像は見やすくなりますし、そこから少しレベルアップして照明を作り込めば格段に見栄えの良い映像になります。この記事ではそんな照明のイロハを分かりやすく解説していきます。
動画における照明の重要性
初心者の方が動画を撮る際はなかなか照明にまで注意を払えないかもしれません。特に照明をしなくても最低限の映像は撮れるのですが、照明の工夫次第で映像は大きく変わります。
照明の第一の役割は明るさの確保
大前提として、明るい環境だとカメラがたくさんの光を取り入れることができ、結果としてクッキリとした美しい映像になります。最近のカメラは暗いところでも映せる機種が多いのですが、これは光を取り込む機能と、取り込んだ光を増幅する機能の両方が向上している、ということです。
この中で光を増幅する機能については、向上しているとはいえ、もともと少ない光を無理に増幅すると粗い映像になってしまうことがあります。映像にノイズが乗ってしまうほど暗いなら照明の出番です。
このように「暗い撮影環境を明るくする」のが照明の最も基本的な役割です。
画作りとしての照明
部屋の電灯も街に設置されている街灯も照明の一種です。太陽も広義では照明と言えますし、これらの光だけで十分に明るいのであれば、「明るさの確保」という意味ではそれ以上に照明を足す必要はない、ということになります。
しかし照明の役割は明るさの確保だけではありません。電灯や街灯とは違う角度から照明することで光の当たっている側にハイライトを出したり、反対側に影を出したりすることでより印象深い画面になります。これが「画作りとしての照明」です。
「今日からできる動画撮影のテクニック集」でも書きましたが、プロの撮影現場にたくさん置いてある機材の半分はカメラに関するもので、残りの半分は照明に関するものです。たくさんの機材を使うだけに照明を組むのも大変な作業で、照明待ちが数時間、ということもあります。つまり「画作りとしての照明」はそれだけ奥深いものなのです。
日本とハリウッドの照明の違い
ちなみに、日本とハリウッドでは照明に対する考え方が違う、とよく言われます。もちろん例外もありますが日本のドラマや映画は対象物を全面的に照らすような、影の度合いが少ない照明が多いように見受けられます。
それに対し洋画の照明は、例えば横からの光で画面の半分が影になっても気にしないようなダイナミックなものが多い印象です。
以上はもちろんスタジオでの照明の話です。昼間の屋外ロケでは当然太陽光を利用するので、スタジオ程には光をコントロールできない、と考えるのが普通です。しかしそこを諦めないのがハリウッドなのです。
順光(正面から光が当たっている状態)よりも逆光のほうが見栄えは派手なのでこれを好むカメラマンは多いのですが、映画「ラストサムライ」のロケ地は多用したいアングルに対し太陽が逆光で差し込むかどうかを基準に選ばれた、と言われています。
映画製作者がどれだけ光を重視しているかが分かるエピソードです。
実際にライティングしてみよう
ここからは、初心者にも実践可能で、かつ効果的な照明のテクニックを、具体的に解説していきます。
照明の基本はメインライト、サブライト
プロの撮影現場には照明機材がたくさんある、と書きましたが、それは必ずしもたくさんの照明で四方八方から照らすべきだ、という意味ではありません。
照明の一番基本的なスタイルはメインライト一灯のみの構成で、もしこれだけで意図した画作りが成立するのであればそれ以上に照明を足す必要はありません。
上の写真は左手前からのメインライト一灯のみで撮影した例です。シンプルながらも効果的な照明と言えます。(写真と動画では照明の方法が異なる場合もあるのですが、本記事では動画と同じ機材、方法で撮影した写真を例に解説します。)
メインライトにもう一灯足して撮ったのが上の画像です。メインライトは相変わらず左手前にあるのですが、二灯目は右奥にあります。この右奥からのサブライトが逆光気味に差し込むことによりモデルさんの右側の輪郭が浮かび上がっているのがお分かり頂けるでしょうか。
このようにサブライトで輪郭を強調した派手な絵柄はハリウッド映画やそのポスターでよく見かけます。
これはちょっとした応用で、サブライトにメインライトと同じくらいの存在感を持たせて、二灯で左右から挟んだ例です。結果的に中央に影が出るのですが、この影がモデルさんに強い存在感を与えています。
このように、二灯だけでもある程度画作りをすることができます。照明機材は基本的には光が出れば良いのですが、LED照明は熱くなることがなく、色温度(※)を変えられる機種も多いので便利です。
※太陽と白熱電球では光の色が違います。昼に白熱電球を付けるとオレンジに近い色合いに見えるのはそのためです。このような光の色を「色温度」と呼びますが、色温度が調整可能なLED照明は、太陽光に近い光も、白熱電球に近い光も出すことができます。
色温度が調整可能なLED照明の例「LEDライトプロVLP-12500XP」
商品名 | LEDライトプロVLP-12500XP |
メーカー | LPL |
価格 | 132,000円 |
光源 | 白色 LED600個/橙色LED600個 |
影を出さない柔らかい照明
上の章では、ある程度ハッキリと光を当てる方法を解説しました。ハッキリ光を当てると当然ハッキリ影が出ますが、このような照明はどちらかと言えば男性の顔の立体感を強調してカッコよく見せたい場合等に多く使われます。
それに対し女性(やアイドル系の男性)の顔はあまり影を出さずに撮ったほうが良い場合があります。そのようなニーズに対応するのが柔らかい照明です。光を柔らかくする目的で照明にトレーシングペーパーなどを被せる方法が昔はよく使われましたが、手間がかかるし初心者には若干ハードルが高いかもしれません。
それに代わる方法として、最近ではリングライトが多く使われています。リングライトとは多数のLED電球をリング状に配置した照明機材です。光源が狭い一点ではなく広範囲になるので、影が打ち消されて柔らかい光の当たり方になります。
ちなみにリングライトではない通常の撮影用LED照明も、小さなLED電球がたくさん集まってできています。つまり点光源ではなく面光源なので、白熱電球などに比べると柔らかい光になります。
リングライトの例「LEDリングライトビューティーVLR-4800XP」
商品名 | LEDリングライトビューティーVLR-4800XP |
メーカー | LPL |
価格 | 70,400円 |
光源 | チップ型白色LED240Pcs/橙色LED240Pcs 計480Pcs |
自然光での撮影とその応用
ここまでは人工的な照明について解説してきましたが、昼間の屋外ロケでは当然太陽がメインライトになります。太陽自体は点光源ですが、その周りの空は巨大な面光源です。直射日光を避ければ柔らかい面光源を活かせるし、両者を混在させることもできるし、自然光に勝るものはないと多くのカメラマンが言います。
しかし太陽は1つしかないので、そのままではスタジオで組むようなメインライトとサブライトのアンサンブルは実現できません。こういった場合に活躍するのがサブライト代わりのレフ板です。
逆光を好むカメラマンは多いのですが、直射日光は非常に強いので影が暗くなりすぎることがあります。その際にはレフ板で太陽光を反射させて影の側に当てると、程よいバランスに落ち着きます。
ちなみに白または銀色の平面であれば何でもレフ板として使えます。コピー用紙1枚でも十分機能するので試してみてください。
上の写真はそのような考え方を応用したものです。メインライトである太陽光は左手前から差し込んでいるのですが、建物に反射した光が右奥から当たっています。これがサブライトの代わりになり、結果的にスタジオで組んだかのような照明が実現しています。
まとめ
いかがでしたか?スタジオでの撮影の場合、照明機材を置く位置や角度、光の強さ等の設定によってさまざまな画を作ることができます。屋外ロケの場合でも、太陽やその反射光を上手く利用することである程度自由に画をコントロールすることができます。
このような画作りに、必ずしも高価な照明機材は必要ありません。もちろんプロが使うさまざまな照明機材にはその機材固有の持ち味があるのですが、基本的な機材の組み合わせだけでも、あるいは自然光だけでもバラエティに富んだ照明を作ることができます。
もちろん現場の状況によってはあえて何もしないとか、最低限しか照明を足さないのがベストだ、ということもあります。照明とはまさに創意工夫や判断力がモノを言うジャンルなのです。皆さんにそんな照明の楽しさを少しでも知って頂ければ幸いです。
執筆者
映像ディレクター(CM、PVなど) / CGクリエイター / フォトグラファー(広告写真、ポートレートなど)
慶應義塾大学総合政策学部在学中より、フリーランスとして映像制作の仕事を開始。現在はCMやPVの演出、撮影、CG制作、写真などを幅広く手がけています。神奈川県横浜市在住。